校種を円滑に接続したSTEAM教育と教育的なプログラミング体験の大切さ

広島工業大学情報学部 情報システム学科 教授/宮城教育大学 名誉教授 安藤 明伸先生より、先日開催したembot共同研究報告会にて寄稿いただいた記事を公開します。


現行の学習指導要領におけるSTEAM教育についてお話しします。現行の学習指導要領では、学習の基盤となる資質・能力や現代的な諸課題に対応して求められる資質・能力を育成するため、教科等横断的な視点から教育課程の編成を図っています。

 

  1. 教科横断的な学習の重要性

2021年に公表された「令和の日本型教育の構築を目指して」では、以下の点が重要であると指摘されています。

– 幼児期からのものづくり体験や科学的な体験の充実

– 小学校、中学校での各教科等や総合的な学習の時間における教科等横断的な学習や探究的な学習、プログラミング教育などの充実

– 発達の段階に応じて、児童生徒の興味・関心等を生かし、教師が一人一人に応じた学習活動を課すことで、児童生徒自身が主体的に学習テーマや探究方法等を設定すること

これらの指摘は、教科横断的な学習をSTEAM教育として実践できる可能性を示唆しています。さらに、「児童生徒の興味・関心等を生かし、一人一人に応じた学習活動を課す」という点は、個別最適な学びにおける学習の個性化にも通じます。

 

  1. STEAM教育とは

STEAM教育にはいろいろな定義がありますが、教育再生実行会議第11次提言においては「各教科での学習を実社会での問題発見・解決に生かしていくための教科横断的な教育」と定義されています。幅広い分野で新しい価値を提供できる人材を養成することができるよう、新学習指導要領において充実されたプログラミングやデータサイエンスに関する教育、統計教育に加える形で推進が提言されています。

 

  1. 小さなSTEAMと大きなSTEAM

この第11次提言は高等学校改革を取り上げたものですが、こうした探究的な学習は何度も繰り返し経験させることで効果を発すると考えられます。この視点から考えれば、ScienceとTechnology的な内容としては、小学校学習指導要領解説において例示されている、小6年理科の電気の効率的な利用の中で、光センサや人感センサといったセンサを用いてLEDを制御する学習内容も、問題に気づき課題を設定し、それを解決する活動として位置づけることでSTEAM教育の入り口になる可能性があります。「STEAM教育はじめの一歩」ではこうしたSTEAM教育の入り口となるような体験や学習を「小さなSTEAM」、プロジェクトとしての大きさや深い探究をともなうものを「大きなSTEAM」と呼称しています。

 

  1. 小さなSTEAMを積み重ねる

Mathの視点で小さなSTEAMを検討する際には、「データの活用」が大きな鍵を握ります。小学校では領域構成が再編され、統計の内容を扱う「データの活用」領域が新設されました。具体的には、以下の内容が扱われます。

– 小4年:複数系列のグラフを組み合わせたグラフ

– 小5年:測定値の平均

– 小6年:ドットプロット、代表値、度数分布表

– 中1年:多数回数の試行で得られる確率の必要性

– 中2年:四分位範囲、箱ひげ図

– 中3年:標本調査

 

これらの学習にはデータが必要ですが、従来は手で扱うことを前提にしていたため、データの量が限定的でした。そこでデジタル計測を行うことで、手で処理することが困難な大量のデータをTechnologyで処理する必然性を認識することが可能となります。特に、データの取得はプログラムによって処理することで、サンプリングの間隔を意識し、センサの値の揺れ・ノイズ・外れ値などに気付く機会になります。

 

しかし、単に理科実験でデータを計測するだけでは、生活や社会における問題を解決するというEngineeringの視点およびArtsの視点が十分とは言えません。そのため、大きなSTEAMとして総合的な学習の時間などで、目的に対する調査の一環として扱えるよう組み込んでいくことが考えられます。また、特に図工や美術においてデジタルアートやプログラミングが取り入れられる意義は大変高く、表現手段の一つになっていることで、STEAMのアウトプットがより豊かになることが期待できます。

 

それと同時に、生成AIによって曖昧な表現がコンピュータで処理できるようになった現在においては、義務教育においてできるだけ早い段階で「コンピュータは魔法の箱ではない」ということを認識することが重要になってきました。例えば、コンピュータを動かしているのはプログラムであり、そのプログラムは人間が意図をもって作成しており、プログラム次第で結果は全く違うものになる、という気づきは、アプリ操作だけでは得られません。子どもたちは、自分自身がプログラミング的思考を発揮させ、デジタルな言語活動によって、コンピュータに一切の誤解を生まないよう、形容詞や副詞、比喩などを使用せずに自分の意図を伝えなければいけないのかに気づくのです。その対比として、いかに人間同士が行っている表現が文脈依存・解釈の多様性の中で豊かに実現できているかにも相対的に気づくことができることでしょう。

 

  1. 中学校におけるSTEAM教育

中学校では、こうしたTechnologyを用いた問題の解決プロセスは技術・家庭科 技術分野で扱われます。技術分野では、小学校理科でのセンサーを扱うプログラミング体験を踏まえて、色々なセンサーによるデータの計測と、その結果をもとにLEDやモータなどを動作させるシステムで、生活や社会における問題を解決するプログラミングを行います。さらに現行の学習指導要領で新規に追加されたのは、人間とプログラムとの間にインタラクション(双方向性)があり、問題を解決する過程にネットワークでの通信を必要とするコンテンツを作成して問題を解決するプログラミングも必修になりました。しかし、校種の学びの円滑な接続については、「各教科等の学習が高度化する小学校高学年では、日常の事象や身近な事柄に基礎を置いて学習を進める小学校における学習指導の特長を生かしながら、中学校以上のより抽象的で高度な学習を見通し、系統的な指導による中学校への円滑な接続を図ることが求められる。」とされており、中学校でも技術科だけで行うのではなく、小学校段階でのSTEAM的な体験を中学校の各教科や教科の横断、総合的な学習にも接続し発展させられるカリキュラム編成と指導内容・方法の充実が求められます。

 

参考

文部科学省:令和の日本型教育の構築を目指して,p.7,44,57(https://www.mext.go.jp/content/20210126-mxt_syoto02-000012321_2-4.pdf

文部科学省:教育再生実行会議第十一次提言概要,p.6(https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2019/05/__icsFiles/afieldfile/2019/05/21/1416597_04.pdf

アーテック:STEAM教育 ―はじめの一歩―,p.9
(https://www.artec-kk.co.jp/special/school_programming/steambook.php )

<監修>
広島工業大学 教授
宮城教育大学 名誉教授
安藤 明伸先生

教育工学的な立場から技術科教育と情報教育を専門に指導・研究を行い、プログラミング教育の浸透に力を入れる。文部科学省 小学校プログラミング教育の手引き、教育の情報化に関する手引き、そして中学校学習指導要領 技術分野の執筆のほか、学習指導要領の解説に関する書籍の出版、執筆を行う。