コラム

非認知能力とは?幼児期から学童期に育てたい「人生を豊かにする力」

「非認知能力」という言葉をご存知でしょうか。これは「学力テストなどでは数値化されない、子どもの将来や人生を豊かにする力」のことで、近年教育分野において特に注目を集めています。非認知能力は生涯にわたって役立つ力ですが、これを育てるには、幼児期から学童期にかけての取り組みが重要だと言われています。今回は、今からぜひ育みたい「非認知能力」について詳しくご紹介します。

非認知能力とは

「認知能力」と「非認知能力」の定義

人間の能力は、大きく「認知能力」と「非認知能力」の2種類に分けられます。

「認知能力」とは、IQ(知能指数)に代表されるような、点数などで数値化できる知的能力のことです。IQという言葉は一般的にもよく知られており、大人が子どもの能力を把握する上で参考にしやすい指標のひとつです。

一方「非認知能力」とは、認知能力以外の能力を広く示す言葉で、テストなどで数値化することが難しい内面的なスキルを指します。具体的には「目標を決めて取り組む」「意欲を見せる」「新しい発想をする」「周りの人と円滑なコミュニケーションをとる」といった力のことで、子どもが人生を豊かにする上でとても大切な能力であると言えます。

非認知能力の種類

テストで数値化されにくい能力は幅広く「非認知能力」と位置づけられるため、具体的にイメージしづらいかもしれません。研究者によってさまざまに定義づけられるケースもありますが、その一例をご紹介します(*1)。

非認知能力の名前 具体的な能力
 自己認識  やり抜く力、自分を信じる力、自己肯定感
 意欲  学習志向性、やる気、集中力
 忍耐力  ねばり強く頑張る力
 セルフコントロール  自制心、理性、精神力
 メタ認知  客観的思考力、判断力、行動力
 社会的能力  リーダーシップ、協調性、思いやり
 対応力  応用力、楽観性、失敗から学ぶ力
 クリエイティビティ  創造力、工夫をする力

こうして見ると、「非認知能力」という言葉にはあまり馴染みがなくても、その中身は子育ての中で一度は目にしたことがあるものばかりだと気付きます。「ぜひ我が子に育んでほしい!」と願うようなものも多いのではないでしょうか。

非認知能力が世界的に注目される背景

紐解いてみると意外と身近なことが分かる「非認知能力」ですが、この能力は今、世界的にも大変注目されています。

そのきっかけは、1960年代にアメリカで行われた「ペリー就学前プロジェクト」(*2)。これは経済的に恵まれない3歳〜4歳のアフリカ系アメリカ人の子どもたちを対象に行われた教育プログラムに関する研究です。子どもたちはランダムにこのプログラムを受けるグループと受けないグループに分けられ、プログラムを受けたグループの子どもたちには、午前中は「子どもたちが主体となる学び方(アクティブ・ラーニング)」による学校教育が施されたほか、週1回先生が家庭訪問をして家庭での親子の関わり方についての指導にあたりました。その後40年にわたる追跡調査で、この「ペリー就学前プロジェクト」を受けたグループの子どもたちは、この教育を受けていないグループの子どもたちと比較して認知能力には大きな差がないものの、学習成績が高く、より安定した社会生活を送り、犯罪率や生活保護受給率もより低いということが分かったのです(*3,*4)。

この結果を受けて、両者の差を生み出したのは、「認知能力以外の力」なのではないかと考えられるようになりました。それはすなわち、テスト等でははかることのできない「非認知能力」であり、その能力こそが社会への対応力につながって、子どもたちの人生をより豊かにしたと言えるでしょう。

今子どもたちが生きる社会は、国際化やボーダレス化が進み、ますます変化に富み多様化しています。この時代を生き抜く上で、今改めてこの「非認知能力」が注目されているのです。

非認知能力の育て方

非認知能力は幼児期から学童期に育ちやすい

非認知能力は生涯にわたって役立つ能力であり、何歳からでも鍛えることが可能ですが、幼児期から学童期にかけて取り組むことが特におすすめです。その理由は2つあります。

まず1つは、幼児期から学童期にかけて、子どもが非認知能力を伸ばせるようなアクティビティを取り入れやすいこと。非認知能力を育てるには、日々の生活や遊びの中で楽しみながら伸ばすのが最適だと言われています。幼稚園や小学校などでの活動の中で、また家庭での家族の関わり合いの中で、さまざまな活動を取り入れると良いでしょう。

もう1つは、幼児期から学童期にかけての子どもは、新しいことに挑戦する力や、そこから多くのことを吸収する力が特に高いこと。さまざまな非認知能力を育みながら、さらなる学びにもつなげやすく、多くの力をバランス良く伸ばしていくことができるでしょう。

非認知能力を育てるポイント

非認知能力を育てる上で大切なのは、日常生活の中で無理なく楽しく取り入れるということ。ここでは、非認知能力を育てるポイントを具体的にご紹介します。

●「遊び」を通して育む

子どもの非認知能力を育むには、さまざまな「遊び」を取り入れることがおすすめです。ここで大切なのは、遊びの中で子どもが「自分で考える力」を発揮できるように意識することです。

例えば、空き箱やプラスチックカップ、包装紙、落ち葉や木の実といった身近な素材を使う工作遊びでは、子どもが「何を使おうかな」「どんなものを作ろうかな」と試行錯誤する過程で、想像力や創造力、工夫する力、最後までやりぬく力などの非認知能力を育むことができます。幼児期には手で触った感触や色などを中心に楽しんでいたものが、小学生になるとより複雑な仕組みを考えて工夫するようになるなど、年代に合わせた成長も見られるかもしれません。

幼児期の子どもが大好きな「ごっこ遊び」も、非認知能力を育む遊びとしておすすめです。さまざまな役を想定してなりきる想像力や表現力、友達と役割を調整する上での交渉力や柔軟性、お互いに関わり合いながらの協調性やリーダーシップなども身につけることができます。ごっこ遊びの中に買い物の要素を取り入れれば、お金の概念を理解したり、自分で計算したりするなど、認知能力を伸ばすことにもつながるでしょう。

●好きなことを通して育む

子どもがさまざまな遊びをする時には、「子どもが好きなことをする」という視点も大切です。大人が「遊びを通して非認知能力を伸ばそう」と意識しすぎると、遊びの方向性を必要以上に誘導することにもつながってしまうため、意外と注意が必要なのです。

子どもの興味が次々と新しいものに移る時は、気持ちの向くままに好きなことをさせてあげましょう。「目移りしないで、ひとつのことに集中してほしい」と感じることもあるかもしれませんが、もしかするとその遊びの中で、想像力や創造力など“何か別の力”が育まれているかもしれません。非認知能力とは、実に多岐にわたるもの。子どもの意思を尊重し、自由に取り組ませてあげる中で、さまざまな力が自然と育まれていくものです。

●周囲との関わりの中で育む

認知能力と非認知能力の大きな違いのひとつに、「周囲との関わり」という視点があります。認知能力は、計算や漢字の書き取りを繰り返し練習したり、歴史や単語などをしっかり暗記したりという側面も大きいものですが、非認知能力はこれと大きく異なります。

自分で工夫して作った作品をお友達と見せ合ったり、他の子のアイデアがステキだと思ったら自分も取り入れてみたり、協力し合って大きなものを作り上げたり。意見がぶつかった時には交渉や調整を試みたり、失敗したときにはそれを取り返す工夫をしたりと、「他者との関わり」の中で学ぶものが実に多くあるのです。

幼児期や学童期は、たくさんのお友達と幅広く触れ合う機会が多いほか、家族で過ごす時間も長いもの。楽しい時間を共有する中で、自然と非認知能力を鍛え、子どもの将来につながるような豊かな力を育んでいけるといいですね。

 

*1
Zhou, Kai. “Non-cognitive skills: definitions, measurement and malleability. Paper commissioned for the Global Education Monitoring Report 2016, Education for people and planet: Creating sustainable futures for all.” Chapter 13 (2016): 242-253.

*2
Berrueta-Clement, John R. Changed Lives: The Effects of the Perry Preschool Program on Youths through Age 19. Monographs of the High/Scope Educational Research Foundation, Number Eight. Monograph Series, High/Scope Foundation, 600 North River Street, Ypsilanti, MI 48197, 1984.

*3
Schweinhart, Lawrence J. Lifetime effects: the High/Scope Perry Preschool study through age 40. No. 14. High/Scope Foundation, 2005.

*4
Heckman, James, et al. “Analyzing social experiments as implemented: A reexamination of the evidence from the HighScope Perry Preschool Program.” Quantitative economics 1.1 (2010): 1-46.

<監修>

坂野 真理先生
子どものこころ専門医。
日本医科大学卒業後、東京大学医学部附属病院小児科、医療福祉センター倉吉病院精神科などを経て、英国キングスカレッジロンドンの精神医学・心理学・神経科学研究所にて修士号を取得。
2018年より「虹の森クリニック」院長を務め、2020年には英国に「虹の森センターロンドン」を開設。

資格:精神保健指定医、日本精神神経学会専門医・指導医、日本児童青年精神医学会認定医、子どものこころ専門医、日本医師会認定産業医

虹の森クリニック
https://www.nijinomori-dr.com/

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