実施日:2023年9月~12月
東京都立あきる野学園
菱 真衣先生
embotを使い、問題解決を通したプログラミング学習を行いました。「作業販売に活用する呼び込みロボット」と作る目的を明確に示すことで、生徒がロボットのデザインや動きに問題を解決するための工夫を凝らすことができるようにしました。
教材の仕分け
互いのものが混ざってしまうのを防ぐためにキットを1人ずつ仕分け、生徒には可能な範囲で記名をしてもらいました。ダンボールのシートにも記名をしておくと近くの席で作業をしていても誰のものか分からなくなることがありません。
ワークシートの作成
生徒たちは、初めてプログラミングに取り組んだため、以下のようなワークシートを用意しました。
①作品のコンセプトを意識する
②プログラミングのイメージをもつ
③自分の作品やプログラムを振り返る
装飾品の準備
今回は、作業販売の呼び込みロボットです。授業の導入では、実際にレストラン等で使われているロボットの写真を見せ、売っているものやサービスをイメージできるようデザインすることを学んでもらいました。本学年は、農園芸班、ハンドワーク班で作った作業製品の販売を行う予定でした。それらのコンセプトに合う材料をあらかじめいくつか用意し、生徒がロボットの用途を意識しながら材料を選択し、作品を制作できるようにしました。
embotを使い、生徒たちは問題解決の学習に取り組む事ができました。「作業販売にお客様を呼ぶためにはどうしたらよいだろう。」という問いを立て、お客様の目を惹く装飾や、ロボットの動き、音などを考えながら作品の制作に取り組みました。店内のロボットの配置についても生徒が考えました。入り口の目立つところや商品の近くにロボットを配置した結果、ロボットの周りにお客様があつまり、生徒が自らロボットについて解説する様子が見受けられました。
プログラミングの場面では、操作方法の説明はほとんど必要なく生徒自身が試行錯誤してロボットを動かす事ができていました。いつもは先生が来るのを待っている支援の必要な生徒が、近くの友人に操作方法を尋ね、自らの力で問題を解決していた場面もありました。また、楽器演奏アプリケーション を使ってメロディを考え、embotで音階をプログラミングをしている生徒もいました。さらに、レベル1のプログラミングで動きを繰り返す事ができなく残念だという感想を書く生徒もおり、ループができるレベル2に挑戦してもらいました。このように、自分の頭の中にイメージした動きが現実となる体験に生徒の知的好奇心を掻き立て、主体的な学びにつながっていったのだと感じました。
embotを活用してよかったことは、ものが動く仕組みが実際に見えるところです。生徒たちが普段仕組みに触れる場面といえば、電池を変えるときくらいだと思います。embotはモーターやLEDライトとコアをつなぐコードなどに直接触れる事ができます。生徒たちは、自分で作って自分で動かしているという実感がもちやすいからとても楽しいのだと思います。embotをきっかけにものづくりやプログラミングに興味をもち、自分の世界を広げていくきっかけになったのではないかと思います。
公立大学法人島根県立大学 准教授/公認心理士
水内 豊和 博士(教育情報学)
プログラミング教育は障害のある子どもたちにも取り組むべきこととして、特別支援学校の学習指導要領にも示されています。
ただし、知的障害のある子どもたちにプログラミング教育を実施する際、やみくもに試行錯誤するだけの活動では論理的に考えることにはつながりにくいものです。以下に挙げる5つのポイントは、特に知的障害のある児童生徒におけるプログラミング教育において留意すべきことです(水内・山崎,2021)。
・思考の可視化
・できた、わかったを支える支援ツール
・苦手を補い過度な失敗をしない配慮
・協同する学びの環境設定
・生活に資する、繋がる教育活動
菱先生は、embotを用いてこの5つのポイントを意識した、とても素晴らしい実践をされています。本実践ではembotという可視的で具体的操作を伴う素材を用いて作業販売の呼び込みロボットを作るという、生徒たちの生活実態に沿ったイメージしやすいテーマで課題解決学習にうまく適用しています。「プログラミング教育」である前に、当たり前のことですが、まずは「特別支援教育」であり、その点、個々の子どもの実態把握に基づき、教科・領域等における学習内容の目標の達成のための学習活動の一環としてプログラミングを取り入れた教育をどのように織り込んでいくのかという点においてベストプラクティスと言えるでしょう。
障害児が高等部卒業後に就く仕事として清掃やお菓子作りなどが挙げられますが、しかしそれらは近い将来AIにより無くなるとも言われています。障害のある子どもたちにこそ、プログラミング的思考を育み、それを活かすことが求められる時代を生きていくために、プログラミング教育は重要な役割を果たすと考えています。子どもたちの「いま」と「これから」のために、本実践事例を参考にして、みなさんにもぜひチャレンジしていただきたいと思います。
水内豊和・山崎智仁(2021)知的障害のある子への「プログラミング教育」にチャレンジ!.明治図書.